【ネタバレ有】映画「鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎」の感想

今までゲゲゲの鬼太郎を読んだことも、実写化やアニメを観たこともない。タイトルを聞いたことがあるだけ。なんか今回の映画、人気らしいので観てきた。

脚本・吉野弘幸、監督・古賀豪。2023年12月1日鑑賞。

 

この映画を一言で表すなら、パンドラの箱

 

なるほどなと思ったのが、作中で初めて妖怪をはっきりと目にした水木に対しゲゲ郎が言う「妖怪はいつでもそこにいる。見ようとしてないから見えないんだ。人間は見たいものしか見ていない」という台詞(うろ覚え)。この台詞こそがゲゲゲの鬼太郎シリーズの主題なんだろう。

 

この映画のなかでも目に見えないものがたくさん描かれている。

・戦時中も戦後も変わらぬ人間の強欲さ、自分勝手さ、暴力、権力

・昔からの閉鎖的な悪しき慣習

女性差別、人種差別

・それらが変わらぬ絶望、苦しみ、恨み

など、目に見えない良からぬものがたくさん出てくる。見落としているものもあるかもしれない。そして妖怪はそれらふくめて目に見えない良くないものの暗喩であるということがわかるゲゲ郎の台詞だろう。

それら目に見えないものがサスペンスベースの物語からいっぱい飛び出してきて、そして物語が終わった一番最後、エンドクレジットのそのあとに残っていたのが鬼太郎。分かりやすく「鬼太郎=希望」として登場する。

 

そういえば、この映画は目にみえない素晴らしいものも描こうとしていたと思いだす。ゲゲ郎とその妻との愛、ゲゲ郎と水木とのブロマンスもそうだろう。

終盤では結局ゲゲ郎と水木のブロマンスを1番重視していたのか?という気持ちにもなったが。

 

最近の日本は暗い。そんな中でも希望をもって力を合わせて生きようというエンパワメントのための映画なのかもしれない。しかし見終わった後はそんな希望にあふれた気持ちにはならなかった。PG12で年齢制限有りとは言えど、勧善懲悪なストーリー、人が死ぬ描写は多々あるが直接的なグロは避けて音や影で表現されているあたりは子供が見ることを意識しているようだった。

 

また、この映画はパンドラの箱のようだと思ったが、ご先祖様のおかげで助かるという流れはかなり日本的に感じた。

 

ほかに今回気づかされたのは、アニメだとメッセージ性の高いテーマをもってくるのに向いているという点。子供から大人まで、敷居が低いのが素晴らしい。成人してからはアニメをほとんど見ていなかったため反省。

 

 

作中のサスペンス要素はけっこう王道なものの詰め合わせだったように思う。展開もセリフも。そのせいかオチが弱かったように感じたが、この映画で1番大切なのは「妖怪」=「目に見えないもの」の描写であり、ストーリーはその次だったのかもしれない。

いわくつきの閉鎖的な場所から出られない中次々と人が死んでいくのは今ではかなり王道だろうし、無害そうな少女が実は殺人犯というのもどこかで見たことがある感じ。そこに生き別れの妻を探す話や裏取引されている秘薬の謎を追う話が絡んでくるので複雑さはあるが、尺が足りてない感じがして少し物足りなかった。

 

特に秘薬Mの製造方法なんかは詳細が曖昧というか、幽霊族の血を抜くと言っていたが、地下にたくさん囚われている幽霊族にはチューブも何も繋がっておらずどういう仕組みになっているのかが気になる。ベッドに囚われているのとは別の場所に血桜があり、その関係もよくわからず。村の人間に幽霊族の血を打ってベッドに縛り、幽霊族に変わったら血桜の根元に移動させてた?そもそもどの段階で血を抜いていたのか?手足を切ると言っていたが皆手足がついていたのはなぜ?など少しモヤモヤする。

 

 

見えないものへの対比なのか、見えるものとしての映像はかなり綺麗につくってあった。全体を通して絵や構図が綺麗なのはもちろん、アクションシーンは迫力があるし、エンタメとしてもとても良い。

 

 

この映画で見えないものの描き方として1番印象に残ったのは龍賀家の長女・乙米。

血の繋がる当主の子を産むため乙米の娘・沙代と当主の爺さんの間に望まない身体の関係があったというのは胸をえぐられる思いでつらかったが、これが一族の定めということはきっと乙米も同じように過去の当主と身体の関係にあったということだろう。沙代に注目が集まる中、悪役として描かれている乙米もまた同じかそれ以上のつらさを抱えてきたのに不可視化されている。沙代は最後に妖怪・狂骨を操り全てを破壊して自分も死ぬことで、つらいながらも少し救われたように感じたが、乙米には救いはあったのだろうかと思うとまた胸が痛む。被害者でもあり、加害者でもある展開のやるせなさ。どちらが悪いと白黒つけられないのが一番つらい。乙米は自分の妹(三女)の夫・長田と不倫してそうな描写もあった。また三女も見えないつらさを抱えている。ここらへんが1番印象的だった。

 

 

全体的に暗い話なので、もういちど見たい気持ちにはならないが、ゲゲゲの鬼太郎に関して興味をもつことができた映画だった。さっそくTVアニメを見てみたくなっている。100周年のアニバーサリーイヤーの映画としてかなりいいのでは。

 

ネットでみたところ、「墓場鬼太郎」の第1話と6期第1話をみてからこの映画を観るとより満足できるらしい。あと横溝正史京極夏彦のファンはより楽しめそうとのこと。まあそれら全く知らなくとも十分楽しめたので、私のように思い付きで見に行ってもいいかも。

 

以上。